
2026年8月末、Google Search Console(通称サチコ。サイトの状態を分析する無料ツール)に、ある新しい設定が、世界中のすべてのサイトで使えるようになりました。
「自分のサイトを、AI検索(AI OverviewやAI モード)に表示させない」——そんな設定です。
いわば、「AI非表示スイッチ」です。
この機能、Search Consoleの左メニューの一番下、「設定」の中にひっそりと置かれていて、意識して探さなければ、まず気づきません。
しかし、ネットのニュースなどで目にする機会もあるかもしれません。
そのとき「うちも設定した方がいいのだろうか?」と戸惑わないために、この機能が何なのか、士業事務所はどう向き合うべきかを、整理しておきましょう。
最初に、私自身が抱いた率直な疑問からお話しします。
この機能を知ったとき、こう思いました。
「わざわざAIに表示されないようにする人なんて、いるのだろうか?」と。
1. そもそも、この「非表示スイッチ」とは何か
まず、機能そのものを正確に理解しておきます。
この設定でサイトを「除外」にすると、AIによる概要(AI Overview)、AIモード、Google Discover内の生成AI機能から、自分のサイトのリンクもコンテンツも表示されなくなります。AIが回答を作るときの参照元からも外れます。
ここで、混同しやすい点を整理しておきます。
これは、通常のGoogle検索結果を消すものではありません。
あくまで「AIの回答部分」だけに関わる設定で、従来の検索順位には影響しません(Googleは、この設定を検索順位の評価には使わないと明言しています)。
また、「AIの学習(トレーニング)をやめさせる」ものとも違います。
それは別の仕組み(Google-Extended)で行うもので、この設定はあくまで「AIの回答画面に表示するかどうか」だけを制御します。
サイトを完全に検索から消したい場合の「noindex」とも、まったく別物です。
つまりこのスイッチは、「通常の検索結果には出したいが、AIの回答の中には使われたくない」という、ごく限られたニーズに応えるための、ピンポイントな設定なのです。
2. なぜGoogleは、こんな機能を作ったのか
では、冒頭の疑問に戻ります。
いったい誰が、何のためにこれを使うのでしょうか。
答えは、この機能が想定している「本来の利用者」を考えると見えてきます。
それは、自社のコンテンツそのものを「商品」として売っている、大手メディアや新聞社、研究機関です。
こうした事業者にとって、記事は有料会員や広告収入を生む「商品」です。
ところが、AIが検索画面上でその記事の内容を上手に要約してしまうと、ユーザーは元の記事を読まなくても満足してしまいます。
これは「ゼロクリック問題」と呼ばれ、メディアにとっては、収入源を奪われる死活問題です。
だからこそ、「AIに中身を要約されるくらいなら、いっそAIの回答には表示されなくていい。
その代わり、通常の検索から自社サイトに直接来てほしい」という選択肢が必要になる。
この機能は、そうしたメディア事業者の切実な要望に応えて生まれたものなのです。
実際、Googleはこの機能を、規制当局との対話も踏まえて導入したと説明しています。
背景が分かると、腑に落ちます。
これは、コンテンツを売って稼ぐ事業者のための機能であって、士業事務所のためのものではないのです。
3. 士業事務所が、このスイッチを押すべきではない理由
結論を、はっきり申し上げます。
相談や依頼の獲得を目指す士業事務所が、このスイッチを押す(非表示にする)メリットは、まずありません。
理由は、士業事務所のビジネスモデルにあります。
メディアと違い、士業事務所にとってサイトのコンテンツは、それ自体が「商品」ではありません。
知見や信頼を示し、問い合わせや依頼に繋げるための「入口」です。
つまり、AI検索に表示されること自体が、見込み客との貴重な接点になります。
ここを自ら断ってしまえば、どうなるか。
大事なのは、次の事実です。
自分のサイトをAIから除外しても、AIの回答そのものは消えません。
AIは、除外されていない他のサイト——つまり競合事務所のサイトから情報を集めて、これまでどおり回答を作り続けます。
結果として起きるのは、たった一つ。
「AIの回答の中に、自分の事務所だけが登場しなくなる」という事態です。
相談者がAIに「この地域で相続に強い司法書士は?」と尋ねたとき、その回答に挙がるのは競合事務所ばかりで、先生の事務所の名前はどこにもない。
これは、自ら見込み客との接点を手放す行為に他なりません。
4. それでも残る「切り取り」の不安と、その正しい対処法
とはいえ、非表示にすべきでないと分かっていても、多くの先生が抱く、もっともな不安があります。
「AIに、都合よく文章を切り取られ、誤った解釈をされたら困る」という懸念です。
この不安は、士業だからこそ、決して軽視できません。
法律や税務は、個別の事情——親族関係、特例の適用条件、登記の筆数など——によって、結論が大きく変わる世界です。
もしAIが、「※ただし〇〇の場合を除く」といった重要な前提条件を削って要約してしまえば、相談者に誤解を与え、思わぬトラブルの火種になりかねません。
しかし、ここで「怖いからAIに表示されないようにしよう」と考えるのは、正しい対処ではありません。
前述のとおり、隠れても競合が表示されるだけで、不安の解決にはならないからです。
本当に有効な対処は、逆の発想です。
「AIに要約されても誤解が生じにくく、むしろ問い合わせに繋がる文章構造」で、コンテンツ(特にFAQ)を作っておくこと。
これが、唯一かつ最強の解決策になります。
具体的には、FAQの回答を、次のような構造で作っておきます。
一つは、「個別条件による分岐」を必ず添えること。
回答の中に、「※この特例の適用には、〇〇や〇〇といった個別の条件を満たす必要があります」という注記を、標準セットとして組み込んでおきます。
もう一つは、「最終判断は専門家へ」という導線を、回答の末尾に置くこと。
「ご自身のケースで適用できるかどうかの正確な判断には、専門的な確認が必要です。まずは当事務所の初回相談をご利用ください」と明記しておきます。
AIには、「結論+注意書き+次のアクション」を、ワンセットで要約する傾向があります。
この構造でFAQを作っておけば、AIが回答を短くまとめた際にも、「詳しい確認には、この事務所への相談が必要なのだな」というメッセージごと、相談者に伝わります。
切り取りを恐れるのではなく、切り取られても大丈夫な、むしろ相談へ導く構造を、あらかじめ仕込んでおくわけです。
5. まとめ:AI時代の戦略は「隠す」ではなく「正しく差し出す」
今回の「AI非表示スイッチ」は、士業事務所にとっては、基本的に「使わない機能」です。
存在だけ知っておけば十分で、設定を変える必要はありません。
大切なのは、この機能が投げかけている本質的な問いのほうです。
AI検索の時代に、事務所のサイトはどうあるべきか。
その答えは、「情報を隠して身を守る」という防御ではありません。
「複雑な条件があるからこそ、AIにも相談者にも伝わる形で、正しく情報を差し出し、「最後は当事務所へご相談を」と言い切る」——そんな、攻めの姿勢です。
隠れるのではなく、正しく差し出す。
そのための土台となるのが、これまでもお伝えしてきた、誠実で分かりやすいFAQの設計です。
もし、「AIに切り取られても相談に繋がるFAQの作り方」を具体的に考えてみたいという先生がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。
ご一緒に、AI時代にふさわしい情報発信のかたちを整えていければと思います。
(参考)本コラムで引用したGoogle公式情報
Google 公式ブログ「New opportunities, control and insights for website owners」(2026年8月31日更新)
https://blog.google/products-and-platforms/products/search/new-controls-website-owners/
Search Console ヘルプ「検索の生成 AI 設定」
https://support.google.com/webmasters/answer/16908024?hl=ja
※本コラムの記載は、上記ページ(2026年8月時点)の内容に基づいています。この機能や仕様は今後変更される場合がありますので、最新の情報は公式ページをご確認ください。


