
「調べものをするとき、検索窓にキーワードを打ち込む前に、まずAIに聞いてみる」——そんな行動が、いま急速に広がっています。
これは、一部の若い人や、ITに詳しい人だけの話ではありません。
最新の調査データは、この変化が全世代に及び、すでに「多数派」になりつつあることを示しています。
今回は、公的機関と民間企業、双方の調査データをもとに、相談者の行動が実際にどう変わっているのか、そして士業事務所が何をすべきかを、事実に基づいて整理します。
1. データで見る「AI検索シフト」の現実
まず、客観的な数字を見ていきましょう。
株式会社サイバーエージェントの専門研究組織「GEO Lab.」が2026年8月に実施した調査によると、検索の手段として生成AI(Google検索のAI Modeを含む)を利用する人の割合は、52.3%に達しました。初めて50%を超え、従来の検索エンジン(86.9%)に次ぐ、「第二の検索手段」としての位置を確立しています。
注目すべきは、この動きが全世代に広がっている点です。
10代(80.6%)や20代(61.0%)といった若年層が牽引しているのは当然として、40代でも初めて50%を超えました(50.2%)。
もはや、AIで調べものをするのは、特定の世代に限った習慣ではないのです。
この傾向は、公的なデータからも裏付けられます。
総務省が2026年7月に公表した『情報通信白書』(令和8年版)によると、日本の個人における生成AIの利用率は58.8%。前年の26.7%から、1年で2倍以上に急増しました。
生成AIが、国民的な情報収集の手段として定着しつつあることが、国の調査でも確認されているのです。
さらに、この調査で見逃せないデータがあります。
検索エンジンと生成AIの両方を使う人のうち、46.6%が、「検索行動の半分以上を、すでに生成AIに切り替えた」と回答しています。
そして、58.7%の人が、「AIにおすすめされたことをきっかけに、商品やサービスを実際に購入・利用した経験がある」と答えています。
AIは、単に調べるための道具ではなく、実際の行動を左右する存在になっている——これが、データが示す現実です。
2. 相続相談の「入口」は、こう変わる
では、この変化は、士業事務所の受任プロセスに、具体的にどう影響するのでしょうか。
司法書士の相続相談を例に考えてみます。
これまでの流れは、こうでした。相続で悩む人が、「相続登記 費用 ◯◯区」といった具体的なキーワードで検索し、検索結果に並んだ事務所のサイトを、一つずつクリックして読んでいく——。
しかし、AI検索が多数派になった今、その「最初の一歩」が変わりつつあります。
まず、悩みを抱えた人は、AIにこう問いかけます。
「親が亡くなって実家を相続することになったけれど、何から始めればいい? 費用はどれくらいかかる?」——キーワードではなく、話し言葉の相談です。
すると、AIが要点(手続きの流れや費用の相場)を整理して答え、あわせて「具体的な相談先」として、根拠にした事務所の情報やFAQを提示します。
そして相談者は、AIが示した事務所の名前や参照リンクをたどって、その事務所のサイトへ直接アクセスし、相談を申し込む——。
この流れで決定的に重要なのは、「AIの回答の中で、参照元・相談先として選ばれているかどうか」です。
ここで選ばれなければ、そもそも相談者の選択肢に入ることすらできません。
相談の土台に登れるかどうかを分ける、最大の境界線が、ここにあります。
3. 今、事務所が取るべき2つの備え
AI検索の利用が過半数を超えた今、必要なのは、小手先のアクセス稼ぎではありません。
AIに「この地域の、信頼できる専門家」として認識してもらうための、地道な備えです。
これまでのコラムでもお伝えしてきた考え方を、あらためて2点に絞ってお伝えします。
① 「費用」「期限」「手順」に絞った、実践的なFAQを増やす
AIは、「相続税とは何か」といった辞書的な解説は、自分で回答を完結させてしまいます(いわゆるゼロクリック)。
一方で、「このケースの費用の目安は」「期限を過ぎたらどうなるか」といった、具体的で実践的な問いには、専門家の公式サイトを、有力な引用元として参照します。
だからこそ、一般論の解説ではなく、相談者が実際に検討段階で知りたい「費用・期限・手順」に絞ったFAQを、結論から先に述べる形で蓄積していくことが効いてきます。
② 「当事務所は」という主語を明記する
FAQや解説の中に、「当事務所(◯◯司法書士事務所)が実際に対応した事例では……」というように、固有の主語と、有資格者の情報をセットで記載します。
こうすることで、AIに対して「この情報は、実在する専門事務所が、責任を持って発信しているものだ」と伝わります。
AIが相談先を推薦するとき、その候補に入りやすくなるのです。
4. まとめ:変化は、備えた事務所にとってのチャンス
「相談者の半分以上が、AIで調べものを始める」——この事実は、一見すると、これまでのWeb集客が通用しなくなる脅威に思えるかもしれません。
しかし、正しく備えている事務所にとっては、まったく逆です。
AIが、先生の事務所を「信頼できる専門家」として、相談を検討している人に自動で紹介してくれる。
そんな、心強い味方になり得るのです。
大切なのは、この変化から目をそらさず、AIにも相談者にも正しく伝わる、質の高い情報をサイトに備えておくこと。
AI検索の時代の相談ルートを、競合に先んじて確保しておくこと。
それが、これからの士業事務所にとって、最も確実な一手になります。
(参考)本コラムで引用した調査データ
サイバーエージェント GEO Lab.「生成AIのユーザー利用実態調査(2026年8月期)」
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=33787
総務省「令和8年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/index.html
※本コラムの数値は、上記各調査(2026年時点)に基づいています。


